サレ妻大離婚記 第6話
実録「大変な仕事」の正体

前回、GPSで暴かれた夫の“仕事”の正体。
今回はその翌日です。……この日わたしは、心の中で「は?」を三十回くらい言いました。
朝、いつのまにか“スタッフ”が生えていた
少し前、夫は「スタッフを雇う」「社用車を用意する」と話していたことを思い出し、なにげなさを装いながら探りをいれてみました。


ついこないだまで「ぜんぶ一人でやってた」はずだけど、当たり前のように“スタッフ”存在させてる。義母が知らずに口を滑らせたあの一件のあと、設定を人知れずアップデートした模様。人材が自由自在に生えてくる世界線。


打ち合わせには来てもらっていながら出勤する必要はないというミステリー。


出ました。「大変」の正体は送迎。終わりのない1歳児ワンオペで協力を求めるわたしに逆切れするほど“大変なお仕事”の中身は、成人女性の送り迎え。
そこから夫は、わたしが聞いてもいないことを自らぺらぺらと話し始めました。彼女の家でも機材のメンテナンス、組み立て、打ち合わせをしたりしていて、大型機材を、申し訳ないけど彼女の家に置かせてもらっている、と。しかも——和室の畳の上に。彼女はおばあさんと二人暮らしで、それはそれは立派な広いお家なのだそうです。
外で使うような機材を、畳の上に。床探せ。全面畳張りか?そして誰も聞いていない“立派な家”アピール。家の格は査定してないって。

そう話しながら、今日の動きだったら電車と車どっちがいいと思う? と聞いてくるので、


妻の送迎は光の速さで回避。彼女の送迎は……この二つ、のちほど正面衝突します。
家でパスタ食べた直後、サイゼで…
その日は午前中家で仕事をしていて、めずらしく「昼は家で食べてから出る。パスタ食べたい。」と言うので、パスタを茹でました。夫も一緒に食べて、食べ終わるなり——

と、飛び出していきました。
わたしもすぐに出かける準備をし、GPSを頼りにあとを追いました。点が止まった先は、サイゼリヤ。外から店内をそっとうかがうと、そこにいたのは夫と——写真でしか見たことのなかった、新山さん本人でした。

夫の向かいに座って、親しげに話している新山さん。心臓が嫌な音を立てました。これが、子どもの顔もろくに見ず、慌てて出ていかなきゃいけないほどの約束なのか。わたしや子どもを馬鹿にしてるのか、と頭に血がのぼる。
……ところが、その衝撃を一瞬で上書きする、信じがたい光景を目にすることになります。ついさっき家でパスタを食べた夫が注文したものは、なんと——
ボンゴレ。※またパスタ
そんなにパスタが好きだとは。サイゼ他にも色々あるよ?
夫は本日2皿目のパスタ・ボンゴレ、新山さんはミートスパ、おまけにサラダを2人で仲良くシェアしたあと、すぐそばのスタバに移動して、今度は二人仲良さげにラテを注文し飲み始めました。

スタバでのんびり過ごしたあと、客先店舗へ一緒に入っていきました。数十分ほどで出てくると、彼女は慣れた様子で夫の車の助手席に乗り込みました。二人ともすぐにマスクを外して、楽しげにおしゃべりしながら役所の方へと消えていきました。
わたしは、二人を見つけた時から、震える指でひたすらシャッターを切っていました。とにかく、どんなささいなものでも証拠を。車が見えなくなると、一気に気が抜けて、その場から動けなくなりました。写真でも、地図上の点でもなく、この目で見てしまった。親密な二人の様子を目の当たりにしたら、疑いようがありませんでした。
「送ってあげてただけ」
少し落ち着いてから、もう一度GPSを頼りに役所まで行ってみましたが、夫の車はあるものの、二人の姿は見当たりません。鉢合わせるのだけは避けたくて、追いかけるのはそこで終わりにしました。
GPSを確認すると、役所のあと、車は彼女の家のあるO市の方へ。時刻は17時を回っている。夫に、帰りの時間を合わせて車から荷物を運ぶのを手伝ってほしいと頼んでいたので、電話をかけました。数コールで留守電になったので一旦切ると、すぐにかけ直してきました。




「わかったー」と言って、切りました。
17時過ぎの時点で、彼女の家のある方角へ向かっている。「18時には帰る」は、もう物理的に成立しません。
GPSが新山さんの家に着いた頃を見計らい、もう一度電話をかけました。夫は出ず、しばらくして向こうからかかってきました。わたしは、努めて明るく言いました。


誰も「なんで一緒にいたの」なんて聞いてない。“送ってあげてただけ”——こちらは一言も責めていないのに、反射で出てくるその一言が答えでした。

不服そうに「わかった」。——電話を切ってから、また涙が出ました。なんでわたしがこんな気持ちにならないといけないんだろう、って。
確かめると決めた
手が震えて、涙が出て、それでも「気をつけて帰っておいで」と言って電話を切った。……我ながら、よく言えたと思います。
でも、確信を得てしまった以上、「気のせい」と言い聞かせていた頃には戻れません。記録と事実を積み上げていく——遠回りに見えて、これが最も重要なことでした。もしいま同じように「確かめたい」と思っているなら、感情で問い詰める前に確証を。ひとりで抱えきれないときは、探偵や弁護士の無料相談も、どうか選択肢に。冷静な第三者の目は、当時のわたしがいちばん欲しかったものです。
そしてその夜。わたしはとうとう、この違和感を言葉にします。夫の言い訳は——“ワイパー”。全面戦争の開始です。