サレ妻大離婚記 第10話
実録「ごあいさつに伺いました」

前回、1時間6分の逆ギレ電話の中で、わたしは「彼女に挨拶に行く」と伝えました。夫は渋りながら「来ていい」と言いました。
その日の夕方、わたしは本当に事務所へ向かいました。
「早く来てくれないと困る」
日中用事を済ませている間に、夫から何度も不在着信が入っていました。用事が終わりお菓子も購入して、ようやく電話を受けた時、夫はこう言いました。

挨拶に伺うと言っている妻に、この言いよう。
ドアには、鍵がかかっていた
夕方事務所に着くと、ドアには鍵がかかっていました。
中に入って部屋を見渡すと、そこにはなぜか夫の黒いTシャツを着た新山さんがいました。
新山さんのデスクには、少し前に「そろそろ新しいのに買い替えるからあげる」と、わたしがもらう約束をしていた、夫のMacBookが置いてありました。
そして新山さん本人は、顔をこわばらせ、怯えたような表情で、挨拶すらすることなく、無言で立ち尽くしていました。
そのくせ人の夫のTシャツ着てるのはどゆこと?
わたしは、菓子折りを差し出した
それでもわたしは、来た目的のとおりに振る舞いました。



菓子折りと、モンブラン。修羅場を想像していた人には、拍子抜けかもしれません。でも、わたしは取り乱して責め立てにきたのではない。真実を見極めに来たのです。
「これ、昨日買ったテーブル!」
モンブランに、夫がわざとらしく食いつきました。


——昨日新山さんと家具店に行っていたことを、まるで当然かのごとく話す夫。


そのとき、夫のデスクで夫のスマホが鳴りました。一番近くにいた新山さんが反応しました。

夫と、スマホを、交互に指さします。

新山さんは、無言で、何度もうなずきました。
二人の世界
夫が電話に出ているあいだ、わたしは新山さんに、静かに聞きました。



そこで、急いで電話を切り上げた夫が、どうでもいい話で口を挟んできました。わたしは続けました。


その直後です。夫がスマホで、あるニュースを見つけました。ちょうどこの日、有名芸能人同士の結婚が報じられていたのです。
さっきまで凍りついていた新山さんが、急に生き返ったように声をあげました。

二人は、わたしの目の前で肩を寄せて夫のスマホをのぞき込み、二人の世界に入っていました。
わたしは、それを少し離れたところから、ただ見ていました。
やがて、夫がこう言いました。



「家で食べる」
このとき夫がわずかに言葉を詰まらせた理由を、わたしは知りませんでした。夫が毎晩のように新山さんと夕飯を食べ、そのうえで、家に帰ってわたしの作った夕飯を食べていたことを。
確かめる、ということ(同じような状況の人へ)
会いに行ったのは、問い詰めるためでも、修羅場にするためでもありません。ただ、自分の目で確かめたかった。それだけです。
疑いながら暮らすのは、本当に苦しいものです。「わたしのほうがおかしいのかも」と、一日に何度も何度も思わされる。その状態から抜け出すために、わたしは確かめに行きました。
取り乱さなかったのは、強かったからではありません。取り乱せば、また“頭のおかしい妻”にされて、話をすり替えられる。それがわかっていたからです。だから、菓子折りを持って、丁寧に挨拶をして、帰りました。
おかしな話に聞こえるかもしれません。でも、感情的にならずに会ったからこそ、あの部屋で見たものは全部、そのまま事実として残りました。
もしいま、確かめるのが怖いなら。確かめるのは、相手を捕まえるためではありません。あなたが「もう疑わなくていい」と、自分に許してあげるためです。
次回、夫が帰ってきてから、“嘘”が少しずつ綻びはじめます。夫はついに認めました。——「ごめん、嘘だった」。