サレ妻大離婚記 第11話

実録

嘘は、細部に宿る

前回、菓子折りを持って事務所へ。二人の世界を見せつけられて、わたしは帰りました。夫は「晩御飯は家で食べる」と言い、夫の実家に預けていた子どもを迎えに行った後、帰ってきました。

そして、その夜。わたしたちは昼間のことを話しました。わたしが事務所で見て、感じたことを、ひとつずつ確かめていきました。

「何も言ってない」から、「怖かったです」に

わたし
新山さん、わたしについて何て言ってた?
元夫
何も言ってないよ
わたし
何も言ってないってことはないでしょ。わたしを見て怯えてたよ。何言われるんだろう、っていう顔で
元夫
マジで? 別に、そんなこと何も言ってなかったよ
わたし
わたしが帰ったあと、無言だったの?
元夫
いやいやいや。“モンブランおいしいっすねー”って

そんなのんきな。

わたし
わたしに関することは、無言だったの?
元夫
あぁ…無言じゃないね。話したよ、なんか色々。……何話したっけ……“何で来たんですか?“って
わたし
“何で来たんですか?”(笑)

さっき「何も言ってない」と言った人の口から、新山さんのセリフが次々に出てきます。

元夫
あぁ、“お子さんは?“って。“今日はうちの実家に預けてるよー”って
わたし
いや、預けてることは、その前に絶対言ってるよね?
元夫
今日? 言ったっけ……。今日、預けること?
わたし
流れとして、おかしいよね。……まぁ、いいや。で、“お子さん預けて何しに来たんですか”って聞かれて、何て答えたの?
元夫
いや、なんか“ねこの病院に行ったついでに寄ったみたいよ”って。他は別に
わたし
それで新山さん、“ふーん”って?
元夫
なんか“怖かったです”って。だって、顔怖かったよ? “なんか真顔でしたね”って

わたしマスクしてたんだけど。

わたし
マスクしてたのに? ……ていうか、めちゃくちゃ話してるじゃん
元夫
いやいや、でもそれぐらい

「何も言ってない」から、たった数分でここまで話が変化しました。

敬語という、ほころび

聞いていて、もうひとつ、引っかかることがありました。夫が新山さんのセリフを再現するとき、全部敬語だったことです。でも、実際は彼女は夫に対し敬語を使っていませんでした。

わたし
新山さん、あなたにタメ口だよね。いつから?
元夫
え…? タメ口…? あ、やっぱりタメ口か! 後輩からも言われたんだよ。あの子の特徴なんじゃない?
わたし
いつからタメ口なの? 最初からあんな感じ?
元夫
うん。比較的
わたし
じゃあ、なんで今新山さんのセリフ全部敬語に直したの?
元夫
いやいや…人に説明するときもそう説明するし、別に…タメ口だったっけ?
わたし
うん。というより、“奥さんの前でどう話そう”っていう感じだった。あなたも不自然だった。10年近く一緒にいるんだからわかるよ

新山さんは、わたしにはきちんと敬語を使ったんです。タメ口じゃなかった。彼女は、敬語が話せないわけじゃない。夫にだけタメ口なんです。

「妻が来る」と、言った?

元夫
それはだって、あぁいう会話をした後に、ほんとに来るんだよ?!

「あぁいう会話」。——GPSのことで1時間6分わたしを怒鳴りつけた、あの会話です。やっぱりそれを彼女に話していたということです。

わたし
ちょっと待って。わたしは“挨拶しに行く”って言ったよね。普通なら“妻が挨拶したいって言ってるから、今日来るよ”って伝えるよね? そもそも、わたしがねこの病院のことで電話したとき、新山さん隣にいたでしょ?
元夫
うん…いたっけな?
わたし
いたはずだよ
元夫
あぁ、うん
わたし
今、一番大事なのは、ここから信頼を積み直すこと。解ける誤解は全部解いて、この家を、お互いにとって安心できる場所に戻したい。だから、どんな小さなことでも、嘘だけはつかないで。本当のことだけ、答えて。わたしが来ること、新山さんも元々わかってたよね? 今から妻が来るって、新山さんに伝えてたよね?
元夫
GPS? それは言ってないね

聞いてもいないことに、先回りして答える夫。

わたし
“妻が来る”ってことは、言ってたよね?
元夫
妻が来るって…“何で来るんですか?“って
わたし
さっきは、“何しに来たんですか”って言ってたよ

——“何で来たんですか”。“何しに来たんですか”。“何で来るんですか”。口にするたびに、少しずつ形が変わる。似ているけれど、ニュアンスが全く異なるセリフです。

わたし
それ、嘘だよね。認めて。そこを透明にしないで
元夫
……あぁ、わかった。嘘だった。嘘って、どういう嘘?

どういう嘘?必死だな。

わたし
なんで嘘ついたの?
元夫
わからない。自分に、都合よく……
わたし
なんで、そっちのほうが都合いいと思ったの?
元夫
わかんない
わたし
わかんないで済ませないで
元夫
わかんない。考えられない。なんとなく。その時、そうしようと思ったから

「必要ないよね、その話」

もうひとつ。夫は新山さんに、わたしたち夫婦がうまくいっていないことを話していました。

わたし
夫婦喧嘩してることも話してるんでしょ?
元夫
…うん。GPSのことは言ってない
わたし
で、何て言ったの? どういう話をしてたのか知りたい
元夫
どういう話? 向こうも興味ないし。夫婦喧嘩は犬も食わないって言うじゃん
わたし
じゃあ、なんで夫婦喧嘩してることを説明したの? 言う必要なくない?
元夫
細かいことまでは言ってない。特に、情報は提供してない
わたし
でも、うまくいってないことは、話したんだよね?
元夫
夫婦喧嘩っていうか、もう調子が悪いことは言ってる。俺たち夫婦が、円満じゃないって
わたし
それなんで言う必要があったの? 普通スタッフにそんな話しないでしょ
元夫
…あぁ

ただのスタッフに、夫婦の不仲は話しません。話す必要がないからです。

そこで、子どもがぐずり始めました。話し合いはいったん中断。子どもを寝かしつけて、また再開しました。

嘘は、細部に出る(同じような状況の人へ)

堂々と嘘をつかれると、意外とその場では見抜けないことも多いです。

でも、小さなところで必ず綻びます。一度「何も言ってない」と言っても、問い詰めると隠しきれなくなる。同じ場面のセリフなのに、口にするたびに形を変える。タメ口の話し方を、敬語に直してしまう。どれも、些細なことです。でも、それが嘘を証明していました。

もしいま、あなたが「気にしすぎかな」と思っている小さな違和感があるなら。話し方、言い直し、辻褄の合わないひとこと。——気にしすぎではないかもしれません。長く一緒にいた人の不自然は、全部わかるものです。あなたの違和感は、たいてい当たっています。

そして。信頼や誠実さは、片方だけがどれだけ頑張って積み重ねても意味がありません。わたしはそれを、このあと、改めて思い知ることになります。

寝かしつけのあと、話し合いは再開しました。「30分だけ」という期限付きで。——その30分が、わたしの人生でいちばん長く苦しい夜の始まりでした。

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