サレ妻大離婚記 第13話

実録

夜が明けるまで

前回、「一線を越えた。離婚しよう」と告げられた夜。そのあとも、夫はわたしを責め続けました。おかしいのはわたしのほうで、そんなわたしに我慢してきたけれど、もう耐えられない——そういう話を、延々と聞かされ続けました。

気づいたら、わたしは家を出ていました。

夜道

行き先などありませんでした。スマホも財布も持たず、パジャマのまま家を出ました。あの部屋にはもういられなかった。

どのくらい歩いたのか覚えていません。そのうち足が動かなくなって、道の端にうずくまっていました。

そして、たまたま通りがかったパトロール中の警察の方に保護されました。

警察署で

女性警察官の方に事情を聞かれました。これまであったことをひととおり話したあと、警察の方は、静かにこう言いました。

「そんな人と、これからも一緒に暮らしていくのは無理じゃないですか。夜も遅いし、遠いけれど、実家のご両親に迎えに来てもらいましょう」

やさしい提案でした。でも、わたしは首を縦に振れませんでした。

このまま「頭がおかしいのはわたし」ということにされて終わるのはどうしても納得できなかった。ひとことでいいから認めてほしい。謝ってほしい。その気持ちだけで、「家に帰ります」と言いました。

わたしはこの期に及んでもまだ、“家族”を諦めたくなかったのだと思います。

警察から連絡を受けた夫は「迎えに行く」と言ったそうです。でも、小さなお子さんもいるからと、警察の方が自宅まで送ってくださいました。

「寒かったでしょ?」

家に着くと、夫が出迎えました。そして警察の方に付き添われるわたしに上着をそっと手渡して、こう言いました。

元夫
寒かったでしょ?

ゾッとして、鳥肌が立ちました。

数時間前に、わたしを「狂ってる」と罵り、「離婚しよう」と言い、過呼吸のわたしに薬をすすめた人が、警察の前では、妻を気づかう優しい夫になる。——本当に、恐ろしい人だと思いました。

警察の方が夫に言いました。

「今日はもう何も話をせず、とにかく奥さんをひとりでゆっくり休ませてあげてください」

いびき

元夫
俺はリビングで寝るから、子どもと二人で、ベッドでゆっくり寝な

とても眠れる状態ではありませんでした。だから、「わたしは眠れないから起きてる。あなたがベッドで寝れば」と言って、リビングに残りました。

夫はしばらくのあいだリビングにいて、わたしの口から溢れる悲しみや怒りを、珍しく「うんうん、ごめんね」と聞いていました。

でも、しばらくするとこう言いました。

元夫
もう限界だから先に寝るね。あんまり遅くまで起きてないで早く休んでね

そして寝室へ行き、すぐにいびきをかき始めました。

財布の中

夫が寝た後わたしは、そのときの気持ちを紙に書き殴りました。溢れ出してくるものをそのまま。外が明るくなるまで、何枚も何枚も。

そしてふと、テーブルの上に置いてあった夫の財布が目に入りました。

手に取って、中を見ました。

夜明け前のテーブル。開いた財布から、たくさんのレシートがこぼれ出ている。

いろいろなレストランのレシートが山のように入っていました。どれも二名分。日付を追っていくと、ほとんど毎日でした。文字どおり“毎日”。

わたしが「行きたい」と話していたお店。新山さんの家の近くのもの。昼間からお酒を飲んでいるもの。ひとりで行ったはずの出張のときのもの。「仕事で遅くなる」と言った夜のもの。

朝から晩まで、二人はずっと一緒にいた。しかも夫は、こうして新山さんと外食したあとに、家に帰ってわたしが作った夕飯を何食わぬ顔で食べていた。

——疑う余地すらなくなりました。

なんでこんな仕打ちができるんだろう。早朝のリビングでひとり泣いていると、夫が起きてきました。

「見ちゃったんだね」

元夫
……見ちゃったんだね

それだけでした。悪びれるでも、謝るでもなく。

そしてこう言ってわたしを抱きしめたのです。

元夫
何があっても、結局いちばん大事なのは家族だから。最終的には家族のもとに戻るから。

夫が、はじめて認めた瞬間でした。ついに認めた——という思いと、裏切りが確定したという絶望が、同時に押し寄せました。

そのあとどんな会話をしたのかは、よく覚えていません。心がぐちゃぐちゃになって、わたしは感情のまま、夫に言葉をぶつけました。

崩壊していくわたしを見て、はじめは少し罪悪感があったのかもしれません。わたしの言葉を「うんうん」と受け止めて、話を聞いていました。

でも、それも長くは続きませんでした。夫はやがて限界を迎えて、また——開き直りはじめたのです。

記録は、のちのあなたを守る(同じような状況の人へ)

この夜の記録を目にすると、今でも動悸がして、目をそむけたくなります。でも、こうしたひとつひとつの記録が、のちのわたしを助けてくれました。これは崩壊の証拠ではなく、自分を守ってくれる心強い味方です。録音でも、日記でも、走り書きのメモでもいい。日付とともに残しておいてください。

そして、もしあなたが今、あの日のわたしのように家にいられないところまで来ているなら。——家を飛び出しひとりで夜道を歩くことはしないでください。警察を頼っていいんです。わたしを保護してくれた方は本当に親切でした。110番でも、配偶者暴力相談支援センター(DV相談ナビ=#8008)でも、心療内科でもいい。助けを求めるのは、大げさなことではありません。

次回、夜が明けて。ふたたび開き直った夫との、最後の攻防が始まります。そしてわたしは、ついにこの家を出ることになります。

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