サレ妻大離婚記 第19話

実録

完璧なアリバイ

前回、県外の実家から夫の様子を追っていた話を書きました。

夫の位置情報は、別居後も生きていました。やましいことはないから、それでメイの気が済むなら好きなだけ確認すればいい、と、夫が共有をオンにしたままにしていたからです。

別居して数日後のことです。夫は、夫の両親から「一連の説明をしに来るように」と、実家へ呼ばれていると言っていました。

一日の軌跡

わたしは朝から夫の位置情報を見ていました。

午前中にいちど、位置情報が切れました。数時間後、またONに。お昼すぎに夫の実家のあたりに一時間半ほど。ここまでは、聞いていた話と合っています。

夕方から、夫は街なかの一点に一時間ほど留まりました。そのあとはとんかつ屋に移動して小一時間。それから、普段行くこともない地域の墓地の駐車場へ。そこで、また一時間近く。

——あとで領収書を見て知るのですが、そのとんかつ屋の伝票は、予想通り2名利用でした。

電話

夜、わたしは夫に電話をかけました。

まず、実家には行ったのか。行った、と言います。どんな話をしたのか。「現状報告」「ありのまま」。

そして、こう続けました。

元夫
新山とは、まだ話せてない
わたし
今日、会ってたよね
元夫
……は? 会ってないよ。今日は祖母のところに行って、実家に行って、帰っただけ
わたし
夕方、街なかにいたよね
元夫
……行ったよ
わたし
誰と
元夫
友達だよ

わたしは、その日の軌跡をぜんぶ見ていました。だから尋ねました。

わたし
新山さんと会ってたよね。そのあと墓地の駐車場で一時間以上、何してたの?
元夫
は??? 気持ち悪すぎる! 自分がどれだけ気持ち悪いか、わかってないのかよ!? 新山に言うぞ!?

どんな脅しだよ。

そして夫は、言ってしまいました。

元夫
いいか、今日あっちには完璧なアリバイがあるんだ! 今日アイツは法事だ!

——アリバイ。やましいことがない人は、そもそもその単語を使わない。

もう会っていないはずの相手の今日のアリバイを、なぜあなたが準備しているのだろう。

わたし
法事は夜までやらないでしょ。穴だらけのアリバイだな
元夫
……それでも、ご両親が遠方から来たりとか、あるだろ!

何らかのパーツ

わたし
じゃあ、墓地では何してたの
元夫
駐車場に車停めてたんだよ!
わたし
停めて何を?
元夫
友達と会ってたんだよ!
わたし
友達って誰? 何してたの?
元夫
物を持ってきてもらってたんだよ!
わたし
物って?
元夫
……パーツだよ
わたし
何の
元夫
仕事で使う、パーツだよ!
わたし
どんな
元夫
何らかのパーツだよ!

何らかのパーツを受け取るのに、墓地の駐車場で一時間。

「協力してもらってる」

ここから、夫の話はどんどん大きくなっていきました。

自分は何人もの友達に今の状況を話して、協力してもらっている。 監視されていて家には来られないから、こうして違う場所まで来てもらっている。 行動を見られているのがわかっていたから、今日はわざと、いつもと違う場所を回った。 そうしたら案の定これだ。ほんとうに気持ち悪い——。

わたしが見ていたのは、位置情報が示す点と、時刻。それだけです。それを尋ねただけで、こんなに言い訳がましく不審な説明が返ってくる。

ついでに、さっきのとんかつ屋も。一時間ひとりでとんかつを食べていたことになっていましたが、それも途中で「友達と食べていた」に変わりました。急に、友達が大量に現れます。

そもそもあなたほとんど友達いないでしょ。

「訴えてやる」

そして最後は、いつものところに着地しました。

元夫
もう終わりだ! これは最終通告だからな! 訴えてやる。名誉を傷つけられた、名誉毀損だ。証拠は全部とってある。今日の駐車料金の領収も! メイの精神鑑定もさせるからな!

自分の一日の行き先を尋ねられただけで、妻を訴える、精神鑑定させる、という話になる。

その夜、ひらいたアプリ

電話を切ったあと。

その日の夜遅く、夫は、三か月以上ひらいていなかった、子ども写真共有アプリにログインしていました。

訴える、鑑定させる、と言った、その数時間後に。

この人は今「ちゃんとした父親」のアリバイを作ってるんだな。そう感じました。

位置情報も、会話も、記録になる(同じような状況の人へ)

この日のやりとりもすべて録音していて、書き起こしました。位置情報の時刻、電話で言われたこと、届いたメッセージ。そのときはただ必死でした。でも、こうした日付のある記録が、あとになってわたしを助けてくれました。

問い詰めても言い逃れと逆ギレが返ってくるだけの相手がいます。そういうとき、あなたを守るのは、言い合いに勝つことではなく、冷静に残した事実のほうです。

このあと、夫の言う“友達”の話は、思わぬ形で裏付けが取れることになります。次回、遠い街での話です。

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