サレ妻大離婚記 第21話

実録

必要な人材

前回、隣県の街で夫と新山さんが二人でいるところに、友人が接触してくれました。

その後、夫の言葉は毎日のように形を変えていきました。

朝、「もう会ってない」

わたし
新山さんの件、辞めてもらう話はどうなりそう?
元夫
今日か明日話す
わたし
よろしく。会わずに話してね。あれからもう会ってないんだよね?
元夫
会ってない。オンライン会議のみ
わたし
わかった。わたしの気持ちを尊重してくれてありがとう

二日前、二人がカフェにいたのを、わたしは知っています。友人が、その目で見てくれたから。

それでも、あえて「ありがとう」と返しました。理由は二つあります。夫が「辞めさせる」という話をどう運ぶつもりなのか見たかった。そして——できることなら、本当に辞めさせてほしかった。

夫は続けて、こう送ってきました。

元夫
今日は共同経営者の二人と会議。スタッフの件も含めて

会議で決める。今日明日で辞めてもらう。そういう話でした。少なくとも、朝は。

夜、「必要な人材」

その日の夜、わたしはもう一度聞きました。

わたし
新山さんの件どうなったか教えて
元夫
個人的な話は別として、今の会社の運営には必要な人材だと考えている。本人には話してない。以上

朝は「今日か明日、辞めてもらう」でした。それが夜には、「必要な人材」に。半日でこの変化です。

わたし
まぁそうだろうと思った。了解。報告ありがとう
わたし
共同経営者の二人も、そう言ったってことね?
わたし
質問には答えてね

夫は、わたしの質問には答えませんでした。

翌日、「株主が」

翌朝。わたしは、少しだけ踏み込みました。

わたし
回答をもらえないのなら、共同経営者のお二人に、これまでの経緯を話して詳しく聞こうと思っています。あなたと話ができるのなら、その必要はありません
わたし
新山さんは会社に代え難い“必要な人材”だと、三人の意見が一致した。それでいいですか?

返ってきたのは、会社の話でした。

元夫
会社は一年目。替わる即戦力がいれば代替はできる。でも今、業務を把握して動いているのは彼女だから、今動かすのはリスクがある。両親も同じ意見です

両親?どこからでてきたんだ。

元夫
それに、あの二人は会社の株主で、所属する団体の理事です。会社の評価に直結する。元金融関係で働いていた父も、大変大きな問題として捉えています

株主。理事。株価。金融。父は何の関係が?

夫の浮気相手を辞めさせるかどうかの話をしていたはずでした。それがいつの間にか、会社の経営を揺るがす一大事として語られていました。しかもわたしがその原因であるかのように。

わたし
ご両親の考えではなく、事実を教えてください
わたし
株主のお二人と話して“必要な人材”だという考えに至った、ということでいいんですね

午前中までに答えてほしい、と伝えました。「時間がないので午後になる」と返ってきて、夜になって、ようやく一言だけ届きました。

元夫
答えは、はいです

三人で話して、必要な人材だと決めた。そういうことになりました。

その次の日、「会社外の人に文句を言われたら」

さらに次の日。夫の説明は、また別の言葉に変わっていました。

元夫
今のところ必要なスタッフで、ハードな仕事をしている。会社外の人からマナーがどうと言われたら、言い方次第では辞める可能性がある。そちらとしては辞めてくれた方が好都合なんだろうが、こっちはまわらなくなる

会社外の人。わたしのことです。

わたし
“会社外の人”、ね
わたし
差し入れを持って挨拶に行った妻のことを『何しに来たの』『顔が怖かった』と言われて、不快にも思わない、何も言わない。その人はあなたの何なんですか
わたし
あなたがただの雇い主で、わたしがただの妻なら——こんなの、常識がないどころか、常軌を逸している、解雇してください、という話だったはずでは?
わたし
わたしと子どもは、何ですか
元夫
あなたと子どもの生活のために働いています

答えを少しずらして誤魔化し、逆に相手を攻撃する、それが夫のお決まりの逃げ方でした。

三日での変化

「浮気相手に辞めてもらう」という話をしていたのに、夫の態度と返ってくる言葉は次々と変わっていきました。「今日か明日辞めてもらう」はずが「必要な人材」になり、「会社に代え難い存在」になり、最後には、わたしのほうが「会社外の人」と排除されました。

たった三日で、「妻 対 会社に必要な人材」の話にすり替わった。問題をあやふやにして、最終的にこちらに非があるかのようにして責める。

わたしに必要なのは、その場で夫を言い負かすことではありませんでした。だからぐっとこらえて、日付と状況と言葉を、しっかりと残しました。

じゃあ、わたしと子どもは夫の何なんだろう。その問いを抱え、次回に続きます。

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